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内モンゴルは今……
草原の砂漠化と環境保護、変わりゆくモンゴル族の生活

白い馬の季節
白い馬の季節

【解説】
 『草原の愛 モンゴリアン・テール』、『天上草原』、『モンゴリアン・ピンポン』など、これまでにも内モンゴルを舞台とした傑作は数多く作られてきた。そこに描き出されたのは、みずみずしい緑に輝く草原と、人情味あふれる純朴なモンゴルの人々であった。
 ところが、同じ内モンゴルを舞台としながらも、本作『白い馬の季節』は、まったく趣の異なる作品となっている。
 映画は、乾ききって、砂埃が風に舞う一面の砂漠から始まる。『黄色い大地』を思わせる、死んだような土地で、狂ったかのように舞い踊りながら、雨乞いの歌をうたう村の長。

 「旱魃の草原に 万物救う
  慈雨甘露を 与えたまえ
  ヒスイの如き輝きを
  大草原に与えたまえ」

 砂漠化によって死にゆく草原。その中で遊牧民としての誇りを捨てまいと抵抗する男。夫の思いを理解しながらも、押し寄せる現実の波に抗えず、町へ出ようとする妻と息子。
 本作は、モンゴル族出身の監督が描く、気高き草原の民の誇りと愛惜の物語である。

 本作で監督デビューしたニンツァイは、彼自身が内モンゴル自治区ホルチン地方の牧畜民家庭の出身。そのホルチン地方は、今急速に広がる砂漠化の被害にさらされている場所である。監督が自演した主人公・ウルゲンは、まさに監督自身の分身と言えよう。
 砂漠化については、日本でも黄砂飛来の問題とからんでしばしば報道され、よく知られている。その原因は、降水量の低下、干ばつ、強風などの自然現象、漢族の移住による急激な人口増加、草原をつぶして作られる農地の拡大、羊の過放牧などの人為的な要素が絡み合っている。中国政府は、ここ数年、生態環境保護のために、自然保護区の拡大、草原の回復、放牧の禁止、他地域への移住などさまざまな対策を講じているが、それらがさらに内モンゴル牧畜民の伝統的な暮らしを奪う結果をもたらしているのである。

 人々が次々と草原の暮らしを捨て街へと引っ越していくのを横目に見ながらも、遊牧民の生活をあきらめきれないウルゲン。息子の将来のためにも、妻は老馬を売り、町へ引っ越すことを懇願するが、ウルゲンは承知できない。
 モンゴル帝国の子孫であることを誇りとし、「馬上で生まれ馬上で死ぬ」とも言われる騎馬民族・モンゴル族にとって、馬を手放すということはすなわち、そのアイデンティティを放棄することと同じなのである。そして、その誇りに縛られ、ウルゲンは未来への一歩を踏み出すことができない。
 現実にあらがえず、ついに愛馬サーラルを手放したウルゲンが、過去の栄光に取りすがりながら絶望に打ちひしがれる姿は、観る者の胸を打ち、哀切な涙を誘うものである。

 回族の作家で内モンゴル牧畜民の中で暮らした張承志氏によると、ウルゲンの愛馬の名「サーラル」とは「白」という意味。ただし、理想を表す純白ではなく、馬の毛並みに混じりけのある、灰色がかった白のことだそうだ。張氏は、本作のモンゴル語題名『Qak-un sarel』とは「流れゆく時間の中の白」、すなわち、「凶暴な力を持った時代の変化の中に立つ、ひとつの文明、ひとつの民族の姿を隠喩している」という。
 ラストシーンで、ウルゲンは“白い馬”を野に放ち、民族服を捨て、牙を抜かれたかのように肩を落とし、道の端を茶色く煙る町へと遠ざかっていく。一方で解き放たれた馬は、何ものにもとらわれぬように、道の真ん中を歩いてゆく。あたかも遊牧の民の永遠の想いをのせてゆくかのように。目的があるかのごとく、その姿は悠然といずこかへと向かってゆく……。

【ものがたり】
 干ばつが続き、砂漠化した内モンゴルの草原。
 遊牧民ウルゲン(ニンツァイ)の家でも、牧草は枯れ果て、毎日のように羊たちが餓死していた。このままでは息子フフーの学費すら払えず、学校へ通わせることもできない。追いつめられるウルゲンは親戚のもとへ牧草地を借りに出かけるが、状況はまったく同じで、他人に貸せる余裕などはないのであった。
 妻のインジドマ(ナーレンホア)は、年老いた白馬のサーラル(モンゴル語で「白」を意味する)を売り、もはや町で暮らすほかはないと訴えるのだが、ウルゲンは長年寄り添ってきた愛馬を手放し遊牧民の暮らしを捨てる決心がつかないでいた。
 ウルゲンは牧草地を求め、例年より早く秋営地に移動しようとするが、そこは自然保護区に指定されていた。土地を囲う鉄条網を破壊しようとしたウルゲンは、役所の派遣した、言葉も通じない漢族の労働者に襲われ、袋だたきにされてしまう。
 やむなく町へ出かけ、幼なじみで村の出世頭・画家ビリグに援助してくれと泣きつくが、ジンギスカンの末裔を自称し裕福な暮らしをするビリグは、まるで相手にしてくれない。

 一方、インジドマは、息子フフーの学費の足しにしようと、革商人トゴーにそそのかされ、街道沿いでヨーグルト売りをはじめていた。まるで商売にならず、途方に暮れるインジドマだったが、ある日ヨーグルトを高く買ってくれる男が現れた。親切な漢族の中年男性ツァオであった。ツァオは草原に憧れ、町の喧噪から逃げてきた男だった。

 失意のまま家に戻ったウルゲンは、保護区で起こしたトラブルを理由に派出所に連行されてしまう。村長から草原保護の必要性と放牧禁止を告げられたウルゲンは、激しく泣き崩れるのであった。
 さらに罰金の支払いを命じられたウルゲンは、トゴーの仲介でとうとう愛馬サーラルを町のディスコのオーナーに売り渡した。ついに町で暮らすことを決意したウルゲンだが、激しい後悔に突き上げれられて、枯れ果てた草原の上で酔いつぶれてしまう。
 ある日、町のディスコでサーラルがいかがわしいショーに使われているのを知ったウルゲンは、愛馬を取り返そうとして大暴れし、警備員に取り押さえられる。
 彼の保釈に力を尽くし、愛馬を取り返してくれたのは、ウルゲンの姿にモンゴル民族の誇りを思い出した画家のビリグであった。

 愛馬を取り返したウルゲンは、草原の暮らしを続けようと言うが、町で料理人の職を見つけ羊も全て売り払ったインジドマは、未来に目を向けないウルゲンを激しく罵り、夫と息子を草原に残したまま、ひとり町へ去ってゆく。
 年老いた叔父に説得され、ついに愛馬サーラルを野に返したウルゲンは、ゲルをたたみ、民族服を洋服に着替え、息子に手を引かれるように妻の待つ町へと向かうのであった……。


Season of the Horse 季風中的馬
2005年/中国/35ミリ/カラー/1:1.85/105分/ドルビーSR/モンゴル語

スタッフ
製作:ナーレンホア(娜仁花)、ニンツァイ(寧才)
監督・脚本:ニンツァイ
撮影:ジョン・リン(林良忠)
音楽:オーラントグ(烏蘭托?)
キャスト
ウルゲン…………………………ニンツァイ(寧才)
ウルゲンの妻インジドマ……ナーレンホア(娜仁花)
草原に憧れる漢族ツァオ………チャン・ランティエン(常蘭天)

第25回ハワイ国際映画祭NETPAC Award(最優秀アジア映画賞)受賞
第26回ダーバン国際映画祭最優秀撮影賞(ジョン・リン)受賞

提供:フォーカスピクチャーズ、ワコー、エフ・プロモーション
配給協力:グアパ・グアポ
配給:ワコー、フォーカスピクチャーズ
10月6日(土)より岩波ホールにてロードショー


「白い馬の季節』を語る」&草原の砂漠化と変わりゆくモンゴル族の生活の参考資料はこちらから

「白い馬の季節」の予告動画はこちらから

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