ブラックバス
 
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兵庫・水辺ネットワーク 神戸大学国際文化学部生物学教室角野研究室内
「溜池の明日を考える―豊かな自然と文化を未来に伝えるために」

 
 
 

講  演
「水辺の危機バス釣りブームがもたらす生態系の破壊」
    滋賀県立琵琶湖博物館研究部湖沼研究系
    主任学芸員 中井 克樹

1.ブラックバスとはどんな魚か?

北アメリカ大陸東部に分布するサンフィッシュ科(Centrachidae)の一員。
▼ブルーギルLepomis macrochirus も同じ科に属する。
日本の魚ではスズキやタイなどに近いが、純淡水魚である。
▼背ビレが2つに分かれ、前半分に棘がある。アゴに鋭い歯が生えている。「ブラックバス」とは、サンフィッシュ科の複数の魚種の総称。
▼オオクチバス(ラージマウスバス(Micropterus saimoides)や、コクチバス(スモールマウスバス(Micropterus dolomieui)などが含まれる。
ここでは総称として「ブラックバス」あるいは単に「バス」を用いる。
(*「バスプロ」と呼ばれる職業釣り師のなかには、第3の種、スポッテッドバスも東北日本に“いる”とするものすらいるが、オオクチバスと類似していることもあり、公的機関では未確認。
 
大型の動物食の魚で動く小動物なら何でも食べる。  
▼日本では主に魚・エビ・水生昆虫を食べており、ときにカエルや水鳥のヒナも丸呑みにする。
 
オス親が岸辺近くの浅場に巣を作り、メスを招いて産卵させ、卵や稚魚をオスが保護する。  
▼この保護習性が、オオクチバス(あるいはブルーギル)が日本で猛威を振るう原因(すなわち、繁殖力旺盛というわけである)とする意見も散見するが、それは必要条件でも十分条件でもなかろう。たしかに、保護しない魚と比較して堆魚段階での“歩留まり”が高いことは間違いないが、数が増えるか否かはその後、繁殖齢まで成長できるかどうかが鍵となる。
▼また、この習性の特性を駆除・防除の際に積極的に利用することは可能だろう。
 
2.日本でのブラックバス拡大の経緯と背景

【経 緯】
1925年、ブラックバスが日本に初めて持ち込まれ、神奈川県芦ノ湖に放流された。
▼オオクチバスとコクチバスが放流されたが、オオクチバスのみが定着。
▼当初は、「食べておいしく釣って楽しいのはこの魚しかいない」という理由で持ち込まれた。
以後、芦ノ湖に定着したオオクチバスは永らく湖から持ち出されることはほとんどなかった。
▼例外的にいくつかの移殖が試みられたこともあるが、ほとんど定着にはいたらなかった。
(なお、記録として残っているとことから、これらの移殖は正規の手続きを経たものである。
1970年代になって、オオクチバスは西から東へと、急速に日本全国へと広がりはじめた。
▼1973年・河口湖(山梨県)、1974年・琵琶湖(滋賀県)、1979年・霞ヶ浦(茨城県)など、今や著名なバス釣フィールドと知られる湖でも、次々と捕獲されだす。
1990年代末の現在、オオクチバスは日本の全都道府県に生息する状態になっている。
いっぽう、1992年ごろ、コクチバスが桧原湖(福島県)で釣れ出す。
▼1994〜5年には琵琶湖(滋賀県)や中禅寺湖(栃木県)でも捕獲される。
▼1999年代後半、コクチバスやオオクチバスの後を追って、急速に全国的に分布を拡大中。
 

【背 景】
1970年代、ルアー(疑似餌)を使った釣り(ルアー釣り)が最初のブームを迎える。
▼ブラックバス(当時はオオクチバス)は、ルアー釣りに最もふさわしい対象と考えられた。
▼オオクチバスが急速な広がりを見せ始めた当時、その影響を危惧する反対論もあり、バス擁護・推進する側との間の議論も持たれた。しかし、分布拡大を防ぐための有効な行政的措置がとられることはなかった
いっぽう、当時、バス推進派(いまや著名となった「バスプロ」も含まれる)が自らヤミ放流したり、釣り人に確信犯的なゲリラ放流をそそのかす記事も、当時の釣り雑誌などに残されている。
▼過去20年ほどの間にオオクチバスが急速に分布拡大したのは、その大部分が、バス推進派(業界や業界人)と釣リ人による無秩序・無思慮な放流行為によるものであることは、間違いない。 
▼最近のコクチバスのヤミ放流にも、同様に釣り業界関係者が関係していることが報道されている。
▼推進派は、このような無法行為が過去・現在に指摘されても、「悪意に満ちたバス叩き」程度の釈明しかできないのが現状である。悪事を一部特定の輩に押しつけ、自らはその上にあぐらをかいているのが現状。
ところが、1970年代当時、すでに滋賀県(琵琶湖)や山梨県(河口湖)など、今や日本有数のバス釣りフィールドとなっている湖を含む県のなかには、漁葉調整規則によって指定魚種以外は公共水面への許可なき放流行為を禁止していたところが少なくない。
▼そして、コクチバスが拡大の兆しを見せるなか、都府県レベルで漁業調整規則が整備きれ、バスなどの外来魚の移殖を禁じる動きが全国的に広まった(現在では6道県以外で移植禁止とされている)。
▼これは、行政の立場としては、「バスはいては困る魚」と位置づけていることを示している。
しかし、バスの分布拡大は今も続いている。なぜか?
▼漁業調整規則が十分に認知されていないこと以上に、ほとんど抑止効果を持たないのが現状。実際、罰則規定が軽いうえ、現実に処罰された事例が全国で1件もない。
▼そのうえ、「いる魚を釣ることを禁ずる」ような法的根拠はない。
▼つまり、捕まることのない規制しかないうえ、魚が定着してしまえば釣り放題。すなわち“入れた者勝ち”の状況であり続けたことが最大の間題。
▼推進派や釣り人の主張は、「悪いのは違法行為をした一部の釣り人。釣りを楽しんでいる多くの釣り人は悪くない」というもの。そもそも違法行為がなければ釣りそのものが成り立たないという現実、すなわち、釣りブームが違法行為の“成果”に大きく依存しているという現状を、彼らはどのように考えているのか?
ため池など“私的管理”された水域では、釣り人の立場は、所有者や管理者の許可(容認)があってはじめて、池へ立ち入り、魚を放流し、釣りをさせてもらう、というもののはず。
▼ところが、現実には魚が勝手に放流され、ときに管理者の意向を無視した釣り行為が行われる。違法駐車やゴミ問題、農業施設の破壊など、釣り人による卑劣な迷惑行為は後を絶たない。根本的に間違っていないか?
 

3.非在来魚類の影響の事例

【ブラックバス以外】
ティティカカ潮(南アメリカ)へのニジマスSalmo gairdneriの移入
▼1941年ごろ、養魚場に持ち込まれた。在来のメダカ類(Orestias属)のうち大型種O.cuvieriが絶洩した原因であると考えられている。
ヴイクトリア湖 (アフリカ)へのナイルパーチLates niloticusの移入
▼1960年代初頭にスポーツフイツシングを目的に移植され、しばらくの潜伏期ののち、1980年代に入って“爆発”した。5OO種近い固有のカワスズメ科魚類(シクリッド)のうち200種ほどがすでに絶滅かそれに近い状態にある。とりわけ植物プランクトン食の魚種が激減したことから、植物プランクトンが大増殖し食われないまま湖底に堆積し、湖底の無酸素化を招くなど、湖の水塊全体の状況が大きく変化した。
▼そのいっぼうで、単価の高いナイルバーチが激増したことから漁獲高は著しく高り、湖の水産業は統計上の活況を呈することとなった。しかし、ナイルパーチを漁獲するためには大がかりな装備が必要なため、零細漁民は水産会社の労動者となり、熱帯気候下で脂分の多いパーチの肉を冷凍したりチップとして加工するための産業も興った。これらの大きな急激な変化によって、地域社会や産業構造から食文化までもが激変した。
▼パーチ加工用の燃料を得るために流域の森林伐採が著しく加速きれ、湖は(水塊の生態系の激変もあって)極端な富栄養化へ向かって坂道を転がり落ちているのが現状である。最近ではホティアオイも大増殖し、湖内へ光が充分に届かなくなり、光合成が活発に行われず酸素不足になるという、新たな問題も生じている。
▼最近になってナイルパーチの漁獲が衰退する兆しが見えてきたが、もしパーチ漁が破綻した場合、どのような未来が待ち受けているのか?

 
ラナオ湖(フィリピン)へのウロハゼ属の1種Glossogobius giurusの移入
▼1960年代初頭に持ち込まれ、多くのコイ科の個有種が絶滅に追い込まれた。現在このハゼは湖の優占種となっている。この魚に続いて、多くの魚種が移入され定着している
▼1960年代初頭に持ち込まれ、多くのコイ科の個有種が絶滅に追い込まれた。現在このハゼは湖の優占種となっている。この魚に続いて、多くの魚種が移入され定着している。
北アメリカでのコイ、Cyprinus carpio、金魚Carassius sp、の野生化
▼北アメリカの多くの水城でコイヤ金魚が野生化し、湖沼の生態系を大きく変化させている。これらの魚の摂餌行動が水底を撹乱しすぎるため、水草群落が破壊され、それが動物相にまで影響しているという。

【ブラックバス(海外)】
オオクチバスは世界52の国・地域に、コクチバスは11の国・地域で定着している。
(Lever1996〜尚、この文献は日本はコクチバスの定着した国として数えられていない。)
オオクチバスはハワイやメキシコでは、在来魚類群集に大きな影響を与えたことが報告されている。(Lever)
 
【ブラックバス(国内)】
オオクチバスの侵入後、在来の小型魚類が消失する事例が数多く存在する。(たとえば静岡県[板井1982]、滋賀県[遊麿ほか]など)
ため池などを主な生息環境とする小型の希少種が辛うじて残存している水域は、バスもブルーギルも放逐されていない水域であることが多い。(たとえば三重県のウシモツゴ[河村・細谷1997〕など)

4.外来生物(非在来生物)に対する基本的立場

外来生物が新たな生息場所に侵入・定着した場合、その影響を事前に予測することはきわめて難しい。
また、定着した外来生物が不測の事態を招いた場合であっても、その生物だけを(他の在来生物に影響を与えることなく)駆除・除去することは技術的に非常に困難である。  
これら外来生物の特性から導かれる結論は、「非在来の生物を導入するにあたっては、最大限の慎重さが求められるという立場をとるべきである」ということ。これはいまや、国際的常識となりつつある。
この立場の背景には、在来の生態系(あるいは生物多様性)を維持・保全していくことの重要性が、近年、国際的に強く認識されはじめている、という大きな流れがある。
注意しなければならないのは、この立場は(往々にしてバス擁護論として持ち出されるのだが)人間社会でいうところの“国粋主義”や“排外思想”に類するものでは決してなく、地域個有の自然や文化を守ることと同一の思想的背景に裏付けられているということ。

   
5.ブラックバスは間題か否か? 擁護論を検証する


【検証の前に】
日本にさまざまな外来生物が蔓延し、その影響が問題視されつつあるなか、ブラックバスは外来生物としてはきわめて特異な存在である。それは、この外来生物の分布拡大を積極的に歓迎・推進する社会的勢力(釣り人や業界)が相当数、存在することである。
「でも、ブラックバスが“問題”でなければ別にいいではないか」ともいえ、さまざま“擁護論”も出されている。本当に問題なのか否か、代表的な“擁護論”を検証してみよう。
 
検証にあたって前提とすべきは、在来の自然環境や生態系に対してどのような立場をとるかということ。現在、国際的に「生物多様性の維持・保全」の重要佐が認識されており、日本も、1993年に「生物多様性条約」を批准し、1995年には「生物多様性国家戦略」を策定した。この一連の流れは、在来の生物多様性はできる限り維持・保全していくべきだ、という方向で日本が動き出していることを意味している。
まずは、バスを擁護・推進する側が、わが国のこの方向性に対して合意するのか、それとも、この方向性に対して論拠を持って反対するのかについて問うことから始めなければならない。が、おそらく、この方向性については合意せざるを得ないだろう。(少なくともこれまでのどの擁護論をみでも、この方向性に反対するに充分な論拠を持ち合わせていないことが明白である。)
これまで、バスとバス釣りに関連した問題は、有用魚種に対する影響という経済的物差しで考えられてきた。しかし、時代とともに価値観は変わり、バスの影響は在来生物多様性の撹乱という「環境」の問題として認識されなければならない。 「具体的な検証については「付録」を参照のこと」

【 検証の結果】
バス釣り擁護・准進派の持ち出す擁護論は、言葉巧みに装飾され一見もっともらしく聞こえるかもしれないが、これまで見るかぎりどれにも“正当性”が認められず、議論に値しない感情論や、論理のすり替え、責任転換の傾向が顕著であり、論理的には破綻している。
しかし深刻なのは、バス釣りの世界に一旦踏み込んだ市民(=釣り人)が、これら欺に満ちてはいるが言葉巧みな擁護論を、論理の破綻に気づかぬまま、正当なものであると思いこまされ、自らの行為を自己正当化してしまっている事実である。このようにして既成事実を作りあげた上で、擁護・准進派の“多数派工作”は続いている。
バス釣り問題の最大の“病根”は、昨今のバス釣リブームがヤミ放流という規則違反の行為の“成果”に基づいているという“反社会的”側面を持っていることであるが、その点が不思議なほどに、これまではほとんど指摘されてこなかった。

【研究者側の問題】
また、研究者も“科学的実証主義の呪縛”にとらわれ、「実証的データが不足している」という現実を前にして、必要最低限の発言すらほとんどしてこなかったことは大いに反省されるべきである。
とくに“反体制”“反権力”をかかげる研究者に、自らが環境行政批判を展開するなかで、バスを安易に受け入れることを歓迎するような言質が目立つことも間題である。
バス問題に関しては、“実証’’する以前に明らかな”問題点”に満ちていることを基に、擁護・推進派の動きを牽制することは、研究者の社会的使命ではないか。現在も、その必要性はまったく変わっていない。

6.バス間題をどうするか?

【生きた生物の輸入の間題】
現在、水生生物はワシントン条約で指定される種(国際的希少種)以外は、まったく無規制で輸入されている。すなわち、売れるものであれば“入れ放題”。
ペットや鑑賞魚として、“珍しい”生物が続々と輸入されているのが現状。 ・西側先進諸国の多くでは、国外からの生物の輸入に関してはさまざまなガイドラインを設けている。
環境庁、農水省、通産省など複数省庁が関与する問題であるが、法的・制度的な整備が早急に望まれる。
予想もしないような生物が野外で次々と捕獲される現在、「輸入しても良い生物」を指定すべきで、それ以外は個別に検討するという方向牲が必要。

【生きた生物の国内移殖の間題】
水生生物に関しては、多くの国で、異なる水域間での移殖は原則としてきびしく規制されている。
日本にはまったく制度がないために、たとえば琵琶湖のアユが全国に広まり、それとともに琵琶湖産の魚も多く河川にひろまってしまった。
最近のメダカ保護ブームも問題。下手をするとメダカの地域集団の多様性が喪失されかねない。
すでに日本では、魚が地域的に持っていた多くの多様性がすでに失われてしまっているのではないか、危惧される。
「生き物を放すことは良いこと」とする、今となっては必ずしも“善”とはいえない、日本人の価値観。
 
内水面漁業における方法を問わない増殖義務を定めているだけの漁業法の見直しを含め、生きた生物の移殖に対してできる限りの慎重さを求める方向での、法的組織的整備が必要。
 

【釣りの免許制】
釣りは魚という水域生態系の上位に位置する生物を擁護する行為であり、生態系への影響が大きい。
 
西側先進諸国の多くでは、釣りは免許制で、釣りを行うにあたっては、対象種、大きさ、性別、個体数などが制限される。当然、居てはならない魚を釣るなどは論外である。日本では(もちろん漁業権が設定されているところも多いが)何でも自由に釣り放題なことが問題。
これだけ釣り愛好者が増えた今こそ、釣りの免許制は早急に求められる。 以上の制度的取り組みは、違反行為に対するきびしい罰則規定が伴わないと、抑止効果を持ち得ず、現行の漁業調整規則のごとく、有名無実化してしまう。(決して規制強化が本質的に望ましいことだとは思わないが、日本の罰則規定は何につけても甘すぎると思わざるを得ない。

【地域の環境教育における希少種の保護】
希少種保護の問題は、さまざまな地域で多くの種が同時進行的に危機的な状況にある今となっては、地域レベルで、それぞれの地域に根ざした活動をしないことにはどうにもならない。
そこで、とりわけ地域密着度の強い小学枚の環境教育のなかで、希少種の保護に積極的に取り組んでいくことを提案したい。
 
この取り組みを推進することで、外来魚をどのようなものとして考えるのか、という点についても、子供の認識は違ったものになってこよう。(バス釣はその楽しさだけの理由から子供たちの間にも絶大な人気をほこっているという現状を打破できないか、という期待をこめて)
バスなどの無思慮・無秩序な放流が野放し状態が続く現状では、希少種の緊急避難がぜひとも必要でそのためにも学校単位で飼育下での種族維持をはかることで、とりあえずの避難は可能だろう。
 
今、私達は、身近な生き物が急速に姿を消しつつあることを知っている。そして、そのことは出来る限り避けなければ成らないことも認識している。ということであれば、私達が行おうとしている行為は、それによって身近な生き物に都合の悪い影響が生じると予測される場合、そこまでしてでも行為を進めるべきか否かという基準での判断が求められる。バスの場合には、身近な生き物に好ましくない影響を与えることは、はじめから予測されていたし、その予測が妥当なものであったことを示す悲劇的事例も続出している。少なくとも今からでも、これ以上の分布拡大は防がなければならない。また新しい釣魚の持ち込みはそれこそ完全に阻止するという心構えでの取り組みが必要である。 生物多様性の維持・保全への動きに向けても国際的に大きく動きはじめている現在、日本の現状は後進性が著しく、それこそ世界的に見ても恥ずべき状況である。将来の世代へ、具体的にどのような生物の多様性を引き継いで行くべきかについては、社会的に十分な合意が出来ているとはいえないのが現状だろう。しかし、一旦失われた多様性は、とくに種の絶滅などとなると、人間の力での取り返しのつかない事態であることから、そのことを強く認識した上で、できる限りの慎重さ、謙虚さが望まれることは間違いない。地球環境問題の高まりと併せて、身近な環境問題への具体的な取り組みが求められる。

   
   
     

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